海辺セラピー
昨夜はドイツ人に絡まれたせいで
あんまりよく眠れなかった。
釜山で泊まったゲストハウスは
高層マンションの一室。
広いリビングとシンプルな作りのキッチンがあって
1部屋に2段ベッドが5つ敷き詰められている
ドミトリータイプのお部屋は
アジアのゲストハウスではとても珍しい
男女共用。
なので、ふと隣のベッドを見ると
半裸の白人男性が大の字になって
眠っていたり
下のベッドで
恋人同士のバックパッカーが
いちゃついていたりする。
昨夜は海を見て
良い気分でゲストハウスに帰ると
酔っ払ったドイツ人男性のバックパッカーが
お豆腐をパンにぬって食べていた。
それでついつい
「それはチーズじゃないから
お醤油をかけてそのまま食べたほうが良い・・・」
というような余計な事を言ったら
日本食の話になり
一緒に一丁のお豆腐をつつくはめになったのだ。
そのドイツ人は弁護士なのだそうで
休暇を利用してアジアを旅しているらしい。
昨日まで日本を北から南へと旅行していて
福岡から出ているフェリーに乗って
今日の夕方に釜山に着いたのだそうだ。
日本縦断旅行の間
いろいろと疑問に思う事があったらしく
日本の文化の事やら
芸術の事やら
何やら聞かれた。
そういった質問に何の用意もなかった
日本代表になりきれない わたしは
一向にスマートな返答ができず
意気消沈。
そんな折
「ところで日本人の結婚観はどうなの?」
と聞かれ
それも一概には言えませんけど・・・前置きをしつつ
「日本も他の国と同じで
結婚しない人が増えてきてます。
でも婚活ブームみたいなものがあったりとか
みんな結婚や子供を持つことには
興味があるみたい・・・。」
とこたえた。
するとそのドイツ人は
「その婚活っていうのは
高い教育を受けた人たちがやっている事なの?
僕の周りの自立した人はみんな
一生独身を貫いて
自分のやりたい事をしながら
生きてゆくって言ってるよ。」
とヨーロピアンらしい事を言った。
完全に酔っぱらって呂律もまわらない口調で
Well Educated代表みたいな発言をするのに
ちょっと腹が立って
「自分の幸せだけを求め続ける人生は
寂しくないですか?」
・・・というシンプルな質問が口をついて出た。
言ってしまってから
これは ディベートに付き合わせるための
罠だった・・・という事に気がついたけれど
時すでに遅く
そこから夜中の2時くらいまで
一丁のお豆腐を食べながらの
幸福にまつわる討論に
付き合わされてしまったのだ。
今朝キッチンに行くと
そのドイツ人は今度は台湾人の女の子のバックパッカーをつかまえて
台湾と中国の関係について激論を交わしている。
そうとうなディベート好きらしい。
もしかしたら弁護士の職業病なのかもしれない。
わたしはドイツ人が
たくあんをハンバーガーにはさんで食べていても
お味噌汁をワッフルにかけて食べていても
絶対口出ししない事を誓いながら
ドイツ人の斜向かいに座ってトーストをかじった。
今日も海に行く。
韓国に来てから ずっとずっと 晴れている。
そんな中でも今日は海に行くのに絶好の晴れ模様だ。
ゲストハウスの前で趙さんが迎えに来てくれるのを待ちながら
そうだ あれを試してみよう・・・と思った。
実は、少し不思議な体験をしたばかりだったのだ。
昨日の夕方、釜山に着いてから趙さんに
「夕ご飯でも一緒に食べませんか?」
と電話をして
それからゲストハウスの近くの地下鉄の駅で
1時間くらい趙さんが来るのを待っていた。
2番出口のあたりで・・・という約束だったけど
そこはどこにも座る場所が見当たらなかったので
2番出口から少し離れた
中央広場みたいなところのベンチに腰掛けて待つことにして
膝の上にノートを広げてスケッチをしていた。
着いたらきっと電話をくれるだろう・・・。
それでしばらくすると
頭の右のあたりがピリピリしびれ始めるのを感じた。
耳を少し引っ張られるような気もする・・・。
所在を確かめずにはいられないくらいの強烈な気配。
それで顔を上げると 見覚えのある男性が
わたしの前を通過しようとしているところだった。
趙さんとは3月にフランスのゲストハウスで会って以来なので
正直、その男性を見た時点では、それが趙さんであると確信できなかった。
なのですぐには声をかけずに 後ろをついていった・・・
男性がまっすぐ2番出口のところでに行き
まわりを見渡しはじめたので
そこでようやく声をかけたのだ。
今日も気配でわかるかな・・・。
目を閉じて待ってみる。
こんなふうに変に期待してしまうと
かえってうまくゆかないかもしれない・・・
と思いながら待っていると
やっぱり 頭の右側がピリピリしてきた。
それで目を開いて顔を上げると
趙さんが黒い車で駐車場に入ってくるところだった。
・・・・どうしてわかるのだろう・・・。
カーナビの案内のもと
太宗台(テジョンデ)へ・・・。
太宗台は玄界灘が見渡せる絶景ポイント。
晴れた日は対馬が見えるのだそうだ・・・。
波が砕けるのを見るのは飽きない。
岩の模様を見るのにも飽きない。
海の絵なんて
恐れ多くて とうぶん 描けない。
海はわたしにとってやっぱりちょっと遠い存在で
相変わらず 仲良くはなれていないような気がする。
だからこそ 釜山にいる間はなるべくたくさん海が見たい。
・・・という事で太宗台の後は
海雲台(ヘウンデ)ビーチへ・・・。
海雲台は高級ホテルが立ち並ぶビーチリゾート地。
釜山に海を見に行くぞ!と思い立った時に
いちばんはじめに 頭に浮かんだのもここのビーチだった。
海を見ながら
趙さんが日本の企業で働いていた時の話を聞いていると
気になるキーワードが出てきた。
「日本の会社はストレスが多かったですから
体がしびれてくる事がありました。
でも、病院で診察してもらったら
どこも悪くないと言われたので
我慢して働いていました。」
しびれる感じ・・・かぁ・・・。
そう思って 趙さんの頭の辺りに手をかざすと
手をじっとりと跳ね返すような感覚。
ちょっと手を貸してくださいといって
手を触らせてもらうと
今度はビリッと電気が走った。
「今の わかりましたか?」
「・・・なんか ちょっと痛かったです。」
なんだろう この人。
ものすごく帯電している・・・。
「ひとまず そこに座っててください」
そう言って趙さんを座らせておいて
後ろから肩に手を当てると
手が振動しそうなほどに
ビリビリビリビリ・・・何かが騒いでいるのがわかった。
なんだろう・・・。
ひとまず これがおさまるまで
待ってみようか・・・と
肩に手を当てたまま沈黙。
かなり長い沈黙・・・。
波の音を全身で受けていたせいか
多分わたしが手を当てることで
このビリビリの波動は
波の音に協調してゆくんだと思った。
長い長い時が過ぎて
ビリビリがおさまったので
手を離すと
手から肘までの感覚が麻痺している。
時々こういう手当て(氣治療)はするけれど
こんなふうに 感覚がなくなってしまうのは
はじめての経験で
少し驚いた。
そして、その反面、なんとなく気分が良い。
良いというか・・・良くも悪くもない
ニュートラルところにいる感じ。
趙さんのビリビリの波動と
わたしのぼーっとした波動が
作用しあって中庸を導き出したのかもしれない。
人と人が打ち解けるというのは
こんなふうにぴったりと静止した状態で
相手を見れる事をいうのだと思う。
その時、なんとなくだけれど 趙さんとはすごく
仲良くなれた気がした。
腕の感覚が戻りきらないまま
ゲストハウスに帰ると
ドイツ人は
もうチェックアウトしている。
そのせいでゲストハウスがずいぶん静か。
彼はまた どこか別の宿で
ディベートをくり返しているんだろうか・・・。
また帰納法や演繹法を駆使して
濁りない論理を貫き
確信に迫っているのだろうか・・・。
そんなふうに たくさん 話さなくても
人と人っていうのは
波の音を聞きながら 沈黙しているだけで
わかりあえたり
近づけたりするものだよ・・・。
と 彼には言いたかったような気がする。
明日は釜山を離れてテグに行く予定。
朝には手の痺れが治っていると良いな。







