夏の陽炎
「それじゃあ 今年はユカリさんは
梅雨をとばして 夏をむかえることになりますね。」
と趙さん。
日本の梅雨は6月。
韓国は7月から梅雨入りするのだそうだ。
わたしは6月いっぱい韓国にいて
7月に日本に帰ろうと考えているから
ちょうど梅雨を避ける事になる。
「そうですね。
そう言われてみると
雨をしのぐために韓国に来たのかもしれません。」
雨の雫は忘れかけた記憶を手繰り寄せるから。
「それじゃあ
あんまり暑い季節は
南半球に行くと良いかもしれません。」
そうですね。
それも良いですね。
例えば7月は
シドニーでスノーボードをするとか・・・・。
フランスのゲストハウスで出会った韓国人旅行者3人組の1人
李さんが待っている大邱に向けて高速道路を北に向って進んでいる。
大邱は韓国の第3の都市。
「りんごと美人」 を多く産出する街・・・と言われていたりする。
この組み合わせにはなんとなくメラッときてしまう・・・。
りんごにも美人にも負けてはいられない・・・。
美人といえば大邱出身の李さんはかなりの男前。
フランスのゲストハウスでお会いした時も
思わぬところで韓流スターを目の当たりにしてしまったような思いだった。
レモンジュースを炭酸水で割ってミントを浮かべたのに匹敵するくらいの
さわやかさ・・・。
後ろ暗さのかけらもない。
大邱の李さんの家に着くと
李さんは玄関先で
ジーンズに真っ白な半そでシャツを着て
シャツと同じくらい白い歯を見せて
笑顔で手を振っていた。
この潔白さを
歯磨き粉か洗濯洗剤・・・
お昼1時から3時の時間帯のコマーシャルに
使わない手はないと思ってしまう。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
と聞くまでもなく李さんの体からは健康が滲み出ていた。
だけれど韓国語のあいさつのレパートリーが少ないわたしは
見るからに元気そうな人に どのようなあいさつをするべきなのかが
わからない。
趙さんには
「マニポゴシポッソヨ。(とっても会いたかったです)」
と言うことをすすめられたけど
はにかみ笑いがステキすぎる人にこういう事はかえって言えない。
「この3ヶ月は何をしていましたか?」
と別の質問をしてみると
「毎日プールで泳いでいました」
との事。
全く爽快な日々を送っていたらしい。
李さんの車に乗り換えるとアンバー系の
落ち着いていてどこか官能的でもある香りに包まれた。
アイボリーのレザーシートの助手席はゆったりとしていて
メーターの表示もギアのカタチもどことなく品がある。
浜辺を散々歩いてくたびれた靴で上がりこんでしまったのが
恥ずかしくも 申し訳なくも思えてくる。
「素敵な車ですね。」
と言うと
後ろの席に座っていた趙さんが
「李さんは お金持ちだから・・・」
とかわりに答えた。
李さんはハンドルを握って前方を見たまま
屈託のない笑顔を静止させている。
微塵の嫌味っぽさも漂わせないのはさすがだと思う。
3人で向うのはもう1人のメンバーである林(Lim)さんの待つ安東。
安東は韓国儒教文化の総本山であり
韓国の昔ながらの建築や生活様式が今もまだ残る
伝統的な村。
韓国のおみやげ物屋さんでよく見かける木彫りの仮面は
この地域で受け継がれている
河回別神グッタルノリという野外で行われる民族劇で使われているものらしい。
林さんは河回別神グッタルノリ仮面博物館の駐車場で待っていた。
「おひさしぶりです。 お元気でしたか?」
・・・やっぱりこれしか言えないわたし。
久々に会う林さんはフランスで会った時と少し雰囲気が違う。
だけれど 温かみのある話し方はフランスの時と一緒だ。
ひとまず4人そろったところで
マッコリで乾杯。
初めてマッコリを飲んだのだけれど
キムチのような香りがする不思議なお酒だ。
「ユカリさんは 梅雨をさけるために
韓国に来たんですよ。」
と趙さんが2人に話している。
そんなことを言われた潔白な彼と温和な彼は
一様にきょとんとしている。
日本では雨が降っているのだろうか・・・。
それとも晴れているかな?
ふと日本という国が
波にさらわれるように、ものすごく遠ざかってゆくような気がした。
ずっと昔からこの韓国の村で
4人で無邪気に遊んでいたような
これからもずっと4人でここにいるような
そんな幻想にかられる。
こういうのはきっと夏の陽炎。
まだ梅雨も越していないのに・・・。
ありがとう
韓国のオパ(おにいさん)
ありがとう
晴れ渡る空。
4人での旅はどんな事が起きるんだろう・・・。







