変換
「目の前にいる人のために
お行儀悪く座ってみて・・・。」
というのが 演出家の森田さんの
一番初めの指示だった。
急に「お行儀悪く」と言われても
どうしてよいのかわからない。
そう思ってまわりを見渡していると
「左右非対称にして座るの。
自分が楽な座り方じゃなくて
楽に座っているように見える座り方ね・・・」
と森田さんは続けた。
一体 このワークショップは どうなってゆくんだろう・・・。
今月いっぱいは韓国にいるつもりだったのだけれど
だいぶ前に申し込みをしていた
「イッセー尾形のつくりかた」
という地元で行われるワークショップが
6月末に迫っている事を思い出した。
韓国滞在を心から楽しんでいて
正直このまま韓国に永住してしまっても良いような気持ちになっていたのだけれど
「舞台に出るために日本に帰ろうか迷っています。」
とある時口に出してみたところ
「舞台」という響きがなんとも甘美であることに気がついた。
それで
ついつい悩ましげにこのフレーズをくり返しているうちに
この陶酔はいつの間にか
「舞台に出るために日本に帰る事にします。」
という決断へと変換されてしまったのだ。
「舞台」というのは
一体どんなものをもたらしてくれる
魔法なのだろう。
お行儀の悪く座ったところで
参加者の人数を数えてみたところ だいたい30人前後。
子供からお年寄りまで・・・年齢も性別もばらばら。
自己紹介は舞台が終わった後で・・・との事だったけれど
「方言を話してください」
の指示に、ほとんどの人が出雲弁でこたえているところを見ると
みなさん地元の人たちらしい。
今回のワークショップは
森田雄三さんの演出のもと演劇の素人たちが
決められた台本のない演劇を4日で作ってゆくというもの。
そんな事が 果たして可能なのか・・・。
円になったわたし達の結束力を強めているのは
そこに渦巻く不安の感情のみだった。
その円の中を 車椅子に乗ってくるくる回っている森田さんが
なんだか角が生えた赤い悪魔に見えてくる。
この不安の渦は舞台と魔法と
それから森田さんの魔術によって
どんなものに変換されるのだろう・・・。
舞台まであと4日。

