ここにある音

6 月18

大物俳優さんが来たところで

取材陣が騒がしくなってきた。

わたしも どさくさに紛れてインタビューを受けたりしている。

テレビやラジオ、新聞などのメディアが

どのように このワークショップを解釈して報道するのだろう。

このワークショップがやろうとしている事は

メディアが向っている方向の真逆だから

分かり合えないところが多々あって

報道にのせるのも難しいんじゃないかなぁ?

と思ってしまう。

「イッセー尾形のつくりかた」

というワークショップ。

明後日には本番なのに まだほとんどの人に役がついていない。

だけれど そんなに 焦らなくなってきた。

なぜなら稽古を始めるよりもずっと前から

わたしたちは現実の世界を生きているから・・・。

ワークショップには

5つ年上の兄が一緒に参加している。

「向こうの席にいる人って もしかして・・・ユカリさんの?」

「・・・兄です。」

「あ・・・やっぱり。 

雰囲気が似てますよね。」

30人もいる参加者の中で

あの2人は兄妹では・・・?

と察知できる人間の能力というのは偉大だ。

例えばわたしたちの兄妹関係を

テレビドラマふうに演出すると

どうなるだろう。

兄とわたしは こんなふうに 離れて座らず

隣同士で座っている。

そして2人は

唐突に子供の頃の思い出話を始める。

そこには感動的なBGMが流れて

セピア色がかった回想シーンが

挿入されるかもしれない。

テレビが求めているのは

誰が見ても一目瞭然の

わかりやすい情報。

それは大変親切ではあるけれど

現実には存在しない嘘の世界だ。

そしてその世界は完成に近づけば近づくほど

見る側の想像力を刺激しなくなってしまう。

「夏の音をやって・・・」

と森田さん。

参加者の1人が 高らかに 

「ミーン ミーン」

と せみの鳴き声をすると

森田さんは それをすぐに 中断させて

「それは 東京の夏でしょ・・・。

この土地の夏は違うはずだよ。」

と言った。

「どうして東京や

テレビの解釈を入れてしまうの?

ここにある音は 

ここにいる人にしか表現できないんだから

それをやってよ。」

そう言われて 参加者の皆さんが出した音は

誰の解釈も加えられていない独特の音だった。

森田さんは

それを次々につなげてゆくように指示を出す。

最後には30人全員が

それぞれの夏の音を響かせていた。

嘘の世界から借りてきたものではなくて

自分の中にあるもの。

ひとたびそれを空気中に発することができれば

それは必ず何かと結びついてゆく。

その事を証明してくれるような

この土地の夏の音がそこにあった。

きっと本番はうまくゆく。

舞台まであと2日。

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