屋久島と宇宙
いつものように 夜の散歩に出かけると
星たちが こんぺいとう みたいに 色とりどりになっていて
秋が来たのだなとわかった。
夏はわたしがひとつ年を重ねる季節でもあるせいか
1年の軸としての位置を占めている。
春は夏の前の季節だし
秋は夏の後の季節
冬は夏から一番遠い季節という認識が
いつの間にか 成り立っているような気がする。
思えば 今年は 夏休みが5回きたような夏だった。
今年の1度目の夏は
韓国で過ごした日々。
それから 2度目の 夏は
イッセー尾形さんの舞台。
そして 3度目の夏は
屋久島の大変こじんまりとした洋食屋さんで
一切れのハンバーグを残したまま
フォークとナイフを持って
唖然としている S氏の表情から 始まる。
「 どうやって これたんですか!!? 」
S氏というのは
1度目の夏の時に 韓国で知り合った陰陽師。
彼との再会が まさか 皆既日食の前の屋久島になるとは
わたしのほうとしても 容易に想像できるところではなかった。
「 どうやって ・・・って フェリーに乗って来たんですよ。」
夕方まで油彩画の教室で中絵の仕上げをして
それから バックパックに荷物を詰めて 夜行バスに乗り
福岡へ行き そこから 寝ぼけ眼で 鹿児島行きのバスに乗り換え
日食目当ての客でごった返しているフェリーに揺られて
屋久島に到着したばかりのわたしは
あまり複雑な返答をできる余裕がなかった。
「でも なんで チケット買えたんですか?
みんな 半年前から準備してるんですよ。
それに 宿は?」
フェリーのチケットは なぜだかわからないけれど
空席を見つけることができた。
宿は今日だけ 民宿に泊まって
あとは テント暮らしをする事にしたのだ。
キャンプ場は 友だちの知り合いのところに確保できた。
そういった 充分ではないけれど なんとかなりました・・・という
経緯を説明していると
S氏と わたしと 同じ種類の旅人に属しているふうの
髭の男性が わたしの隣に座った。
皆既日食前の屋久島に押し寄せた人々は
ほぼ3種類の人種によって 成り立っていた。
パタゴニアを着て
選び抜かれたアウトドアグッズが
体のあちらこちらから閃光を放っているような
セレブなロハスピープルがそのうちの1つ。
そして もう ひとつの 集団は
ドレッドヘアか スキンヘッド・・・どちらにしても
オフィス街ではまず見かけない髪形に
梵字であったり ネイティブアメリカンのシンボルであったり
土の香りのするタトゥーを 腕全体に彫った
国籍不明のヒッピー風の人々。
それから 最後に S氏や わたし
そして白熊君のような
高速バスや電車で旅をしている
18歳をとっくに過ぎても
青春18切符の旅が苦にならない
プライバシーを重んじられなくても
ゲストハウスの暮らしを楽しめる
質素な旅人。
「 なんだぁ・・・もっと
バリバリの旅人みたいな
強そうな人を 想像してたから
かなり意外・・・」
白熊君はそう言って
こちらを じっと見つめた。
わたしのほうでも白熊君に焦点をあわせる。
日焼けした顔の半分を生え揃わない髭がうっすらと覆うけれど
いわゆる 旅だけをしている人というよりは
普段はちゃんとした仕事をして
週末だけ 旅人として生きているような
分別のある人に見える。
発言の内容よりも 話し方全体に
礼儀正しさが漂っているので
立派な社会人である事は間違いないと思った。
S氏と白熊君は鹿児島のゲストハウスで知り合って
そこから 一緒に屋久島に来たのだそうだ。
「もっと 強そうな人って・・・S氏は
一体 どんなふうに わたしの事を紹介したんですか?」
そうたずねると
S氏は
「 これるもんなら 来てみろ! って言ったら
本当に来てしまった人だって 紹介したんです。」
と答えて ハンバーグの最後の一切れを食べ始めた。
確かにそんなに負けん気の強い女の人は
タンクトップに 短パンで
ごついバックパックを背負って登場しそうなものだけれど
先ほど 宿で軽くシャワーを浴びてきたばかりのわたしは
部屋着に使っている なんとも控えめなロングスカートをはいていた。
ご期待に沿えず申し訳ないような気もしつつ
もう一度 屋久島に来ることになった流れを思い出してみる。
韓国でS氏に会った時 確か わたしたちは屋久島の話をしていた。
S氏は 屋久島に以前住んでいたそうだから
なんとなく 話題に上ったのだろう。
それから 日本に帰って 1度 電話でお話した時もまた
屋久島 という 言葉が出てきた。
そして そこには 皆既日食という
宇宙規模のイベントが加わっていた。
「皆既日食を見に
屋久島に行くなんて 素敵ですね。
わたしも行きたいなぁ・・・」
もののけの世界の隙間から見え隠れする
宇宙を思い浮かべながら
そう言うとS氏は
「でも 多分 今から準備しても ダメだと思いますよ。
入島制限もかかっているみたいだし
宿もフェリーもいっぱいでしょう・・・。
まぁ、 来れるもんなら 来てみてください。」
と変に突き放すような言い方をした。
突き放すというか 大人をムキにさせるような言い方だったと思う。
その言葉が なんとなく ひっかかった。
「 それじゃあ もし行けたら 行きますね。」
そう言って 電話を切って 数日後
自分でも驚くことに 本当に 屋久島に行ってしまったのだ
行けてしまったのだ・・・屋久島に。
初めてのテント持参でのひとり旅。
ムキになっていたとはいえ
そこまで 頑張ってどこかへ行くなんて事は
今後あまりないと思う。
白熊君は
「ええっ!!? それで 本当にこれたんですか?
どうやって? なんで!?」
と相変わらず 信じられない・・・という顔をしている。
そう言われてみると
ほんとうにここへ来てしまえてよかったのだろうかという
疑惑が渦巻く。
この謎の答えは
旅の間に見つける事ができるのかもしれない。
その日は皆既日食の2日前で
わたしたち3人は
とても大きな宇宙との駆け引きの中に
身をおいていた。
今年3つ目の夏のはじまり。


