年越しの花火

2 月23

「日本の人は、お金持ちなのに

ほんとにケチよだよ。

ひと晩一緒にいても

8割くらいの日本人は、お金払ってくれないよ。

頭に病気があるね。」

と、ルナが言う。

夜は、日本人向けのスナックでバイトをして

昼間は、わたしの勤めるこのカフェで働いている。

大学で日本語を専攻していたから日本語がとても上手だけれど、

わたしが、中国語学習者だと知っているので

わたしと話すときは、なるべくゆっくりと中国語で話してくれる。

「それは、以外だね。

日本人は、あんまり何にも考えずに

日本の物価のままの計算でお金を払いそうなイメージだけど。」

そう言うと、ルナは続けて

「それに、日本人のお客は変だ。

キレイな女よりも、田舎者っぽい女のほうが好きだ。」

と、不思議で仕方ないといったふうに首をかしげた。

そう言われてみれば、確かに、日本人ビジネスマンが、

お化粧をあまりしていない

童顔の中国人の女の子を連れて歩いているのを

何度か見たことがある気がする。

「日本のビジネスマンは、ゴージャスさよりも

癒しを求めているのかもね・・・」

そんな話しをしている矢先に

だぼっとしたセーターを着た猫背の中国人女性と

いかにも、「私服」と呼ばれるものに不慣れな様子で

ポロシャツ、ジーンズともにユニクロでそろえた日本人男性の

2人連れがカフェの扉を開けて入ってきたので

わたしたちは、すぐさま口を噤んだ。

ルナが注文をとり、伝票を厨房に送ると

また、天井スレスレのところに備え付けられたテレビから聞こえてくる

Jポップが大きく響き始めたように感じられる。

Jポップというか、繊細な歌詞をダラリとした音運びで奏でるあたりが

ややUKロックっぽい・・・日本の曲。

こういう種類の曲マーケットは、おそらく

人生に影が帯びるのを感じ始める思春期の男女だろうと思う。

いつの時代にも、影を請け負う音楽があり

影を請け負う仕事は、静かに生き続けているような気がする。

ルナは小さな声で

「ほんとは、 今の仕事はしちゃいけないよ。

仏教徒には

肉を売る仕事と

酒を売る仕事は よくない。

だから、何か、別の仕事をしないといけない・・・」

ルナは仏教徒で

中国人ではめずらしく、ベジタリアンだし

ヨガのプラクティスも欠かさない。

仏教名・・・というようなものも持っているらしい。

ユカリももし、名前が欲しかったら

今度、お寺に連れて行ってあげるよ。

と誘われたことがある。

一体、どんなノリで、受け止めてよかったのかがわからなかったので

ひとまず、「へー、そんなに簡単に名前をつけてもらえるものなんだね」

と関心するのみにしておいた。

「中国は、本当にひどい。

どんな動物でも殺して食べるし

お金持ちは、

体に良いとか言って

人間の胎児を煮込んだスープを食べたりもしてる。

頭に病気があるね。

こんなところにいたら、いつか天罰が下って

天災に巻き込まれて

死んでしまう。

だから、わたしは、いつか中国を離れるんだ。」

わたしのために、なるべく単純に、簡単な中国語で話してくれているからだろうか

ルナの言う事は、いつも単純明快だ。

中国では、旧暦で新年を祝う。

その年越しの時には、街中から花火の音が鳴り響いた。

本当に、戦争が起きたのかと思うくらいの

ものすごい激しさだった。

道を歩けば、子どもが花火に火をつけて遊んでいる。

遊んでいるというわりには、笑いもしないし、ちっとも楽しそうではないのだけど。

それから大の大人が爆竹に火をつけて振り回している。

だからと言って、決して羽目を外しているふうの盛り上がりもなく

ただ、年の初めにやるべき事だというふうに

もくもくと、騒音を鳴り響かせている。

「花火は、その年の厄を全部落としてくれる」

と、中国の人は言う。

日本の除夜の鐘の静かな響きとはまた違った

中国なりの年の清め方があるのだ。

年越しの翌日には、地方から来た出稼ぎ人たちが

一日がかりで、花火の残骸を収集していた。

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