チキンスープと登山(1)

5 月26

登山というのに、そんなに思いいれがあるというわけでもないが、

5月の初めに、恋人が1週間の休暇をもらえると知ったときに、

わたしはまず「どこかの山に登ろう」と提案した。

おそらく、恋人にとって、常にインパクトのある存在でありたいというエゴの強さが、

わたしの、冬の間にエクササイズを怠けすぎて、

重みを増したお尻に鞭を入れたのだろう。

わたしたちは山東省にある

標高1500メートルの名山「泰山」に登る予定を

休暇のクライマックスとして控え、

ひとまず山東省の海岸の街、青島(チンタオ)を目指した。

(今、これを書いていて、チンタオ、とワードでタイプした時に、

「青島」と変換されなかったので、驚いた。

確か、旅の途中で、家族にアイフォンでメールした時は、

「チンタオ」は「青島」に変換されたと思う。

アイフォンののほうが、中国の土地の名前に対応しているらしい。

日本人同士で話している時、

中国の土地の名前を中国語の発音をそのまま使う場合と、

漢字を日本語読みにする場合との二通りがある。

例えば、福建省はフッケンショウと、吉林省はキツリンショウと呼ぶのが一般的、

(中国語では前者をフージェン、後者をジーリンと言う)

「北京」をペキンでなくて、ベイジン、なんて発音したら、その場の空気を濁す事になる。

だけれど、河南省とか、湖北省などの、ややマイナーな省になると、

たいていの日本人が、中国語の発音を用いるようになる。

(前者はハーナン、後者はフーベイ)

そして、それが、ひとたび、省の名前ではなくて、都市や、通りの名前となった時には、

日本語の発音を使う確率はぐんと減る。

通りの名前は、たいてい、他の地域の名前を引用している事が多いのだが

「先日、南京に旅行に行きました。」という時の南京は「ナンキン」と発音し

「明日、伊勢丹天津店の前の、南京通りで待ち合わせをしましょう」の時の南京は「ナンジン」と発音するのが一般的、

というか、ある意味、礼儀である。もちろん、話す相手にもよる。全くややこしい話だ。

天津を出発する日の朝も確か、身支度を整える際に、

「山東省」は日本語だと、サントウショウだったかしら?シャンドンショウだったかしら?

それとも間をとって、サントン?などと、うつろに考えていた。

携帯電話でタイプすれば一発でわかるところを、ただ漫然と思いふけっていたために、

髪を撫で付けるだとか、靴下をはくだとかの行為全般に時間がかかり、

予定していた北京行きの電車に乗り遅れてしまった。

天津を出る時間にして30分程度の遅れだったが、

それが北京から山東省への電車の旅を大きく狂わせてしまう事になる。

その日は、ちょうど連休が明けた日の翌日だったので、

わたしたちは、それほど乗客はいないだろうという楽観的な予測をしていた。

ところが、北京についてみると、切符売り場は、汗臭い長蛇の列にすっかり覆われており、

わたしたちが、ようやく切符売り場の窓口にたどり着いた時には、シート席は完売。

わたしたちは、北京から山東省までのほぼ5時間を中国の新幹線、

和階(ハーシエ)号の連結部に体育座りで過ごさなければならなかったのだ。

(つづく)

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