1/1400のS氏

5 月19

「いい名前 つけたってやー」

と言われて、しばらく考えているのですが

なかなか名前を思いつきません。

この河童の人形。

沙悟浄のSからとって仮にS氏とします。

S氏と出会ったのは3日ほど前の出雲大社の大礼祭での事。

朝、新聞で大礼祭の事を知り

なんとなく 行ってみたくなって 

兄を誘って出雲大社に向いました。

出雲大社は先日松江市で行われていた

ホーランエンヤほどではなかったと思いますが

境内には県内外から訪れた人々で溢れていました。

大茶会があわせて開催されており

背筋のピンと伸びた着物姿の奥様方が足早に往来しています。

一方 わたしは、朝からの曇り空のせいか

境内に足を踏み入れた時点から なんだかちょっと気だるい・・・。

重い足を引きずって 前殿の前まで行くと

祭祀がすでに開始されています。

頭をたれて祝詞に聞き入っていると

場全体の空気や時間の流れの変調に吸い込まれてしまいそうになりました。

竜巻のような大きな 大きな エネルギー。

拍手を4拍

お参りを済ませると

「そうだ正門前でやっている骨董品市も見に行こう」

という話になりました。

ゆるやかな坂道を登って

鳥居のあたりを目指します。

そしてその骨董市の露店の片隅からこちらを見ていたのがS氏

「お姉ちゃん。 河童の川流れって知ってるー?

泳ぎの上手いもんでも、溺れる事があるって意味や。

おじちゃんも、世間をうまく渡ってきたつもりやったんやけどなぁ・・・」

S氏を片手にもって そう話しかけてきたおじさんは

いまどき見かけないような蛍光色が配されたキャップをかぶって

隙間の大きく開いた歯並びを覗かせながら

苦笑いを浮かべていました。

「・・・ま、 いろいろあるから見てってやー」

その露店には

一昔前に流行ったキャラクターのキーホルダー

ヒンズー教の数珠

ゴムが伸びきった パチンコ。

般若心経が書かれた手ぬぐいなど

コンセプトがつかみきれない いろいろなものが置かれています。

そして そんなごちゃごちゃした空間に

こんな張り紙をみつけました。

・・・気学占い 無料です・・・

「おばさん、本当に 無料で占ってもらえるんですか?」

相変わらず苦笑い続けているおじさんの隣には丸顔のおばさんが座っていました。

兄と妹みたいにも見えるけれど

きっと 長年連れ添った夫婦なのでしょう。

蛍光色の帽子以外はいたって地味な格好をしているおじさんとは対照的に

おばさんのほうは

真っ赤なフリースに真っ赤な口紅

それから まんまるの顔のラインを

真っ赤なバンダナで包み込んでいます。

「あら? 占って欲しいことがあるん?」

どうしようか・・・と顔を見合わせている 兄とわたしに

おじさんは すかさず

「ほんまに 無料やでー。 占ったからって 

何か売りつけたりもせえへんから安心しときー」

と手招きしました。

露店の裏に通された 兄とわたしの2人。

おばさんは使い込まれたふうのノートに兄とわたしの生年月日・名前を書いて

占いを始めます。

「うわーっ あんたは しっかりしてんなぁー男みたいや。」

というのが わたしの占い結果を見たときのおばさんの第一声。

占いというのをしてもらうのが人生で3度目なのですが

その前の2回でも同じような事を言われているような気がします。

兄もなぜだか

「本当!!妹はしっかりしてるんです・・・常に勉強しているし」

とおばさんに加担します。

(わたし自身は 自分のいいかげんさに、はなはだ呆れて

本当に 世の皆様に申し訳ないと思っているところなのですが・・・。)

「楽天的で、繊細・・・まわりの事もよう見てる・・・

みんなが幸せなのがええと思ってはるなぁ。

あんたは 土から生えてる 木みたいなもんや

あんたが行くところは栄えるでぇ。」

との事。

一方兄は女性的なのだそうで

わたしが木なのに対して

「お兄さん、あんたは お釜や・・・あのオカマちゃうで!!!」

と言われていました。

「お釜の人は、水泳のインストラクターにだけは ぜったいになったらあかん!!」

とやけにピンポイントなご指摘をいただいたり

兄の占いはわたしのの3倍くらいの時間をかけて行われました。

頭が良くて、器用で、才能があって、何でもできるぶん悩みの多いのが兄。

思いやりの深さも手伝って、いろいろと気苦労してしまうのだそうです。

「あんたら 入れ替わったらええんちゃう?」

と言われてしまうほど

兄は女性

わたしは男性。

そんなわたしたちが

今の時代を生き抜いてゆくための話の最後のほうで

おばさんが 少し涙ぐんでいたように見えたのは気のせいだったでしょうか?

なんだか 心にじーんときて あったかい気持ちになりました。

お礼に何かを買ってゆこうと思うも

どう考えても、欲しいものが見当たらず・・・。

結局

「いろいろ占ってもらって、ありがとうございました」

と笑顔で手を振って露店を後にしてしまったわたしたち。

帰りの車の中でも、なんだか申し訳ないような気持ちになって

明日、何かお礼を持ってゆこうという事になりました。

なぜだかわからないけれど「ご飯もの」をあげたい

という想いで、朝早くに起きて 炊き込みご飯を作ります。

お料理も わたしより 兄のほうが素質があると

言われていたけれど、今回はわたしのお手製です。

お弁当箱を抱えて 再度大社に向いました。

その日はお昼から、雨の予報。

こういう日は露店の仕事は厳しいだろうなぁ・・・。

そう思いながら骨董市を見渡すと

昨日と同じ場所で謎コレクションを陳列している

おばさんの赤いバンダナが目立っています。

「昨日は占ってくれて、ありがとー」

と炊き込みご飯を差し出すと

おばさんは

「あかん!あかん!! これは あかんわー!!」

とびっくりするくらい動揺しはじめました。

「自分のなかの貯金のために無料でやっとる事やさかい

人さまから何かもらったら あかんのやぁ・・・。

ほんま どうしよー。 せっかく作ってきてくれはったし・・・

ほんまどうしよー。」

どたばた 動き回っているおばさんの隣で おじさんは言います。

「お姉ちゃん。河童の川流れって知ってるー?」

「はい。 昨日聞きました。」

「そやな。馬鹿のひとつ覚えは あかんなぁ」

おばさんは ようやく思い立ったように言いました。

「そうや! じゃあ、炊き込みご飯のお礼に

店のもん なんか1つもってってー」

・・・ううん・・・それは困った。

しばらく考えて

「じゃあ、その河童 いただきます。」

と言うと

おじさんは

「この河童なぁ、 中国に120個注文したら 1200個作ってしもうて

仕方がないから 全部買い取ります言うたら 

1400個送ってきてん。

結局1400個ぶん支払いせなあかんくなって大変やったわぁ・・・。

そのうちの1つの河童やから、崇めてやってなぁ・・・。

できれば いい名前 つけたってやー」

と河童の人形を名残惜しそうに渡しました。

名前かぁ・・・S氏の名前。

この大変貴重な1400分の1には

どのような名前をつけらた良いだろう・・・。

S氏はよくよく見ると

とても凝ったつくりで

中には鈴も入っています。

S氏を振って

ちょっと安っぽいようなその音を聞くたびに

おばさんの 「自分の中の貯金」 はどれくらい貯まったかなぁ?

わたしの中の貯金も積み立ててゆかなければなぁ・・・

なんて思います。

宝物を ありがとう。

降り注ぐもの

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