バラのお城
バラのお城に住みたいと言ったら
とてつもなく わがままな女に思われるから
なるべく口を慎むようにしていたけれど
実際のところ バラのお城に住みたい。
赤いバラが良いと思う。
少し前に、ある方にバラの花をいただいた。
それは 赤とピンクと白の シンプルなブーケで
花瓶ではなくてお台所の隅にあったピッチャーに生けられて
わたしの机の上に置かれていた。
わたしは そのお花の美しさと同様
すっかり磨き上げられて輝きを取り戻した
ピッチャーにも感動した。
「このお花 どうしたの?」
とわたしが聞くと
「これは 僕からではなくて ゆかりの大切な人からだよ。」
と、彼は小さくて善意に満ちた嘘をついた。
わたしの目が
バラの花の色に 吸い込まれてゆく。
無用心に花に近寄りすぎたせいか
その赤い色は すぐさま わたしの 網膜に引火して
あっという間に体中の血管をめぐり 世界をメラメラと燃やした。
わたしは その方の善意に応えるべく
「そうなの・・・」 と納得したような返事をしてみるけれど
次の瞬間には
ほろほろと 砂山が内側から崩れるみたいに
涙が止まらなくなっていた。
きっと 疲れていたのだ・・・と思う。
それから しばらくは 実家に帰って
使用済みのコーヒーフィルターになったみたく
倦怠な日々を過ごした。
「さて これからどうしようか・・・」
空を見ながら 考える。
「何をして生きてゆこうか・・・」
土と一緒になって 考える。
そういうことをするのにふさわしい
親しみ深い青空が広がる 秋の日々だ。
お昼前にようやく寝床から起きて
パジャマのままお台所のテーブルに向ってコーヒーを飲んでいると
母が庭で草を刈っている音が聞こえてくる。
なんという平和な音だろうかと思って耳をすませていると
少しずつ 体をめぐる血が温かくなってゆくのを感じた。
わたしは 果たして ご飯を食べなければ生きてゆけないはずだけれど
それにしても こういう 音とか それから あの時に見たバラの色とか
そういうのが あれば わりと 長く命をつないでゆくことができるのではないかと
思ってしまう。
時折 手短な善行をすべく 献血の列に並んで
海外渡航歴やら 体重、身長などの申請をして
採血をしてもらい ようやく・・・というところで
貧血のために お役に立てないという ことがあるのも
忙しい日々の中で
こういう 必須の音や なくてはならない色から
遠ざかってしまうからでは ないだろうか。
未来や夢や希望が わたしの体を作っているのではなくて
今 ここにある 音や色やカタチが わたしの体を作っている。
そういう自覚が足りないときに
体のバランスが崩れてしまうのだと 思う。
このような 経緯で さいきんは あまり元気がなく
たくさんの方に ご迷惑や ご心配をおかけしてしまい
すみませんでした。
お声をかけてくださった みなさま
ありがとうございます。
わたしは 大丈夫です。
元気ではないので 休養しています。
また すぐに 元気になるような気がしています。
バラのお城に住みたいものだと 思っています。

